夏の幻

日常

7月某日、京都市内。
お昼すぎ、友人と二人で川遊びをした帰りの事である。

そのまま解散するのも物足りないと思い、どこかへ行こうかと車中で相談していた。

特に行きたい場所もなく、そのまま帰って仕事をしようかと考えていた時、ある事を思い出した。

「そういえば!この前どっかでカキ氷100円で売ってる店を見かけた!」

今やカキ氷はスイーツと化している。
物価の上昇も相まって、昔ながらの一杯が400円しても驚かない。

そんな世の中において、一杯100円でカキ氷が食べられるという事は、とても尊い事だと言える。

それは仕事の用事で出かけていた時だった。
自転車である道を通りかかった際、左手に「カキ氷100円」と書かれた小さな木の看板が目に入り、私の胸はかすかに踊った。

看板の方に目をやると、小さな路地が伸びているのが見える。
その先にのぼりが立っていたので居酒屋か何かがあるようだった。

軒先にある小窓から発泡スチロールのカップで渡してくれそうなノスタルジーに魅力を感じたが、一人だった事もあってその日は通り過ぎた。

そして、川遊びの帰りである。
外は灼熱で、同乗者も100円カキ氷案に賛成だった。

しかし、である。
なぜかその店の場所がハッキリと思い出せない。
京都の上京区か中京区のあたりだったという記憶はあるのだが、明確な場所が一向に出てこない。

見かけたのはほんの1〜2週間前だったはずなのだが、、、

頭を抱えていても思い出せそうにないので、目ぼしい場所を走って回る。
それでもやはり例の店にたどり着かない。

もしやと思ったが、二人で協議した結果、「その出来事は夢だったんじゃないか」という結論に行きついた。

そしてそのまま帰宅する事となった。

それから、仕事のついでにめぼしい場所を通ってみるも見つからず、ついに夏が終わってしまった。

やはりあれは夢の出来事であり、私は見分けがつかなくなった現実世界の夏をさまよっていたという事なのか。

しかし、100円のカキ氷屋さんを見つけて喜ぶ夢を見るというのは、自分はなんとささやかな人間なんだろうと思う。

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