夏の恒例行事は花火大会やお祭りの出店でイカ焼きを食べる事だけではない。
それらに並ぶビッグイベントの一つに、トマトサイクリングがある。
それは、自宅から30kmばかし離れた畑や田んぼが広がる田舎町で地元産のトマトを食べるというものである。
こちらには自分縛りルールがある。
午前中に家を出て昼頃にトマトを食べるまでは、ペットボトルに汲んだ1リットルの水道水しか飲んではいけない。
これは汗をかきかき、喉は渇きに渇いた末にたどり着いた田舎町でトマトにしゃぶりつく感動を味わうためのものである。
京都市から亀岡市へと自転車で越境をはかるのだが、これがなかなかハードなのだ。
梅雨明け頃の蒸し暑い峠道を、ゼーハー言いながら大粒の汗をたらして登る。
しかし、その山を越えた先には、山下達郎ばりの僕らの夏の夢が待っている。
ワクワクする夏の予感に満ちたセミの声、白い雲、青々とした稲の海。
峠のてっぺんから駆け下りて一気に変わる景色が広がってくると、高揚した気分がきわまり叫びだしたくなる。
そうして、畑のかたわらにある無人販売所でトマトを手に入れるのである。
とても暑い日だから、涼しげな木々に囲まれた神社で食べることにしよう。
大通りからそれた道の無人販売所で売られていたトマトは、緑がかっている部分が多く、手触りも少し硬い。
所々にカサカサした茶色いスジも入っている。
一見すると避けるような見た目だが、そのヘタからは生命力に満ちた濃い緑の香りが漂う。
シャプっとかぶりついてみる。
しっかりした酸味とほどよい甘みのバランスが絶妙で、なによりものすごく味が濃い。
ゼリー状の部分が少なく身がしっかりしてるのと、ヘタの緑の香りも相まって、なんともたまらない野生的な大地のうまみを感じるのである。
スーパーなどでよく売られている「なんとかトマト」というのは真っ赤に熟してゼリー状の部分が多く柔らかいが、見た目ほど味が濃くない事が多い。
しかしこれはどうだ!
見た目はキレイとは言えないが、トマト本来のうまみとエネルギーに満ちあふれた味ではないか!
「これや!これがホンモノのうまいトマトや!」
と一人で興奮して何度もしゃぶりつく。
そんなトマトを立て続けに3つも食べる。
もうこれは素晴らしい夏の幕開けなのである。
そうして気分良くさらに足を伸ばして温泉を目指すはいいが、遠くへ行きすぎて帰り道は足もパンパンで、峠を越える前に夜が来て真っ暗闇になる。
フラフラとようやく家に帰りつくのは夜の10時頃になるのであった。
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