北海道少女自転車旅行記3

千歳市から喜茂別町の宿まで自転車で向かうべく、リサイクルショップで3,300円の赤い少女自転車を入手した。

一度きりの伝説を作るべく漕ぎ出したが、膝がハンドルに当たるほどにフレームが小さい。
サドルを限界まで上げてみたものの効果は薄かった。

ちなみに千歳市から喜茂別町まで最短の道のりは、支笏湖から美笛峠を越えるルートで70㎞ほどなのだが、この時は事情が違った。
支笏湖を通って美笛峠を越える道が崩落か修復だかで完全通行止めとなっていたのだ。

そうなると、札幌で一泊してから中山峠を越える全長120㎞のコースが無難となる。

最初は少女自転車で長距離を走ろうとする自分が面白くてニヤニヤしていたが、すぐに後悔が押し寄せてくる。
千歳市から数キロ走って恵庭市に入るころには足腰が窮屈で苦しくなってきた。
だんだんと「面白いことしてんな~」と自分で自分を笑う余裕がなくなってくる。

下校途中の小学生達が「あれ見て、ほらあれ、、、」とコソコソ話しているのが丸聞こえである。
こういう場合、大人は見て見ぬふりをするが、子どもは露骨に反応してくる。
恥ずかしくてたまらなくなり、早急にグーグルマップを起動して札幌方面からの最短距離をはじき出す。

すぐに山道を通るルートを確認して一目散に町から離れると、すぐに牧歌的な景色が広がりはじめた。
休憩することなくしばらく走り続けていると、たまに車が通るくらいの山道に入って救われる。

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恥ずかしさは薄らいだものの、やはり子どもサイズの自転車で山道を走るのは肉体的につらいものがある。
それでも宿にたどり着くためにペダルを踏み続ける。

すると、日が傾き始めた頃に分かれ道に出た。
ここで道を間違えて通行止めの美笛峠方面へと走っていた事に気がついた。

道を間違えるのは旅のつきものではあるが、自転車が自転車なだけにこの遠回りのショックは大きかった。

札幌方面に向けてうなだれながらキコキコと少女自転車を漕いでいたが、お尻の痛みが限界に達してきた。

登り坂では自転車を押して歩いていると、そのうち下り坂になり始めた。
疲弊しきった顔をした大人が、明らかにサイズを間違えた自転車で坂を下っていく光景はさぞ痛々しかっただろう。

そうこうしているうちに建物が現れはじめ、徐々に山から町の景色へと変わり始めた。
そして人も増えてきた。中高生くらいの若者が多く、どうやら学校の近くに出てきたようだ。
恥ずかしいじゃないか。

そして私は最大の試練を迎える事となった。
100メートルほど先のバス停に若者が大挙しているではないか。
その目の前を、赤い少女自転車に乗った成人男性が通り過ぎれば笑い者になること必至である。

一度きりの伝説を作りたくて自らこのような暴挙に出たのではあるが、ただただ町の笑い者になる事を私は良しとしなかった。
バス停にひしめく女子大生達の前を少女自転車で駆け抜けるなど、これ以上ない辱めである。

この緊急事態を回避すべく、下り坂を快調に駆けていた自転車から降りて、左の脇道に入っていった。
どうやら札幌市立大学の真ん前に来てしまったらしい。
学生アパートらしき建物が立ち並ぶ住宅街を抜け、バス停を裏側からくぐり抜ける作戦に出たのだが、すぐに失敗を悟った。

住宅地は袋小路になっており、バス停の前を通らなくては先に進めなかったのだ。

私は次の作戦に打って出た。
「バカな妹が自転車を置き忘れてきて取りにきた優しい兄」という雰囲気を醸し出して通り過ぎる作戦だ。
実年齢は33歳だが、今だにあらゆる世代から大学生と間違われるのでギリギリ使える設定だろう。

右手でハンドルを押して歩き始める。
バス待ちの若者たちが近づいてきたところで気だるそうな雰囲気を出し、
「はぁ~、ウチのバカ妹には困ったもんですよ」とため息をつきながら通り過ぎる。

「恥ずかしそうにしてはいけない!
設定に入り込み、堂々と兄らしい空気感を漂わせながら歩きとおすのだ!」
と、折れそうになる心をどうにか保って無事に通り過ぎる事が出来た。

しかしその後、夜の訪れとともに体力と精神の限界もやってくるのだった。

つづく

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