北海道少女自転車旅行記2

北海道・新千歳空港から喜茂別の宿まで向かうため、リサイクルショップで自転車を手に入れる事にした。

お寿司屋さんのワンコインランチを優雅に食した後、その近くのリサイクルショップへと歩き出す。

1kmほど歩いて到着したのは大きくて小綺麗な外観で今どきな感じがする店舗だった。
大型チェーン店だろうか。

広くて天井の高い店内で自転車を探すとシャレた折りたたみやクロスバイクなどが並べられており、どれも1万円以上の値札がつけられていた。
ここに私が求めている品は無いと悟り、すぐ店をあとにする。

私が求めているのは一昔前にホームセンターで9,800円で売られていたようなママチャリであり、その使い古しで3〜4千円で売られているものである。

「やはりあの店に行くしかないか、、、」と希望を胸に再び歩き出す。

「あの店」とは、駅前の大通りにあるリサイクルショップなのだが、とにかく雑多なのである。
4階建てくらいの古いビルの入口付近も店内も、「こんなもの誰が買うんだ」という品々が無造作に積み上げられている。
もはやガラクタショップと言った方が的確かもしれない。

いや、むしろ近年のチェーン店が整然としすぎているだけであり、このようにジャングルを思わせるような物品の密度感こそリサイクルショップの元祖だと言えるのかもしれない。

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初夏の日差しに照らされながら、その店まで歩いてきた。

自転車は道路に面した店の前に並べてられている。
子ども用から大人用、折りたたみに至るまで種々雑多なタイプのサビついた10台ほどが横一列に隙間なく押し込められている。
その光景は商品というより放置自転車という言葉を想起させる。

値札を確認すると、大体どれも1万円以内である、
出来れば公共交通機関を使った場合にかかる片道分の4千円以内でおさめたい。

吟味を重ねて候補を一台にまで絞り込めた。
一台は某安物アウトドアメーカーの折りたたみ自転車で、もう一台はいかにも少女が乗るような小さくて赤い自転車だ。

折りたたみの方は車体は小さいものの、昔のヤンキーが愛好していたカマキリハンドルで乗車姿勢は大人でも楽そうに見える。
しかしタイヤが一般的な折りたたみタイプよりさらに小さく見える。
値段は6千円で、少し予算オーバーではあるが検討対象である。

一方の赤い少女自転車は、小学校3年生くらいが乗るような小ささであろうか。
値段は4千円と魅力的ではあるが、シンプルに乗るのがちょっと恥ずかしい。

私はよくよく考えた。
どちらの自転車で行くのが楽しいか。
そして、伝説的であるかを。

公共交通機関で行くことが大変な宿である。
95%くらいが車かバイクであり、残りの5%はロードバイクなどの高級軽量自転車だ。

そんな宿に後世まで語り継がれる伝説的な登場となるのは、、、

「赤い少女自転車や!」

その光景が脳裏に浮かび、店内レジのカウンターにいたオバちゃんに声をかけた。
70歳は越えていそうで、くるくるパーマを紫に染めている。

「ちょっと、外の自転車なんですけどいいですか?」
オバちゃんは重そうな腰を上げてゆっくりとカウンターから出てきた。

ここから交渉開始である。
購入した自転車を1週間後の飛行機に乗る前に売却しに戻ってくるので、その際の値段も確認しておいた方がいい。

「この赤い自転車、いま買って1週間後に売りにきたらいくらで買い取ってもらえますか?
半分くらいにはならないですよね?」

期待を込めて高めの値段を投げかけてみるとオバちゃんは無愛想に「ならん」と一言。

「ですよね。千円くらいですか?」と妥当そうな値段を言ってみると、さっきと同じ調子で「ならん」と一蹴。

驚いた私は素のリアクションで「え!? 2〜300円くらいにしかならないですか!?」
と大きめの声をあげるとオバちゃんは「金にならん」と言った。

「なんだこの店は金にならん買い取れないモノを4千円で売ってるのか!?」とツッコミたい気持ちを飲み込んで黙っていると、パープルパーマのオバちゃんは言った。

「買い取れん。その代わり3千円にしちゃる。そんで持ってきたら無料で引き取っちゃる。こんな自転車捨てるのも金かかるじゃろ。」

「そんなガラクタを4千円で売っているのか」と、さっきと同じ感想を抱いたが、まぁ条件的には悪く無いと思ったので交渉成立である。

ついでに私は「あの、消費税は?」と聞いてみると、「ならん。消費税は何があってもまけん。」と返ってきた。

交渉も無事に済んでレジでお金を払っているとオバちゃんが急にフレンドリーになり始めて、餞別として桃ゼリーをもらった。

店の前でオバちゃんに見送られていざ出発。
と、赤い少女自転車にまたがってみた私は思わず「ちっさ!」と声に出していた。

ペダルに乗せた右足がハンドルにぶつかりそうではないか。

一瞬で後悔を感じたものの、時すでに遅し。
オバちゃんに「ハハハ、行ってきます」と言い残してフラフラと漕ぎ出した。

つづく

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