職人、保育士を目指す その2

あれこれ

伝統工芸の仕事をするかたわら、友人の誘いで2020年の9月から週一回だけ保育補助をする事になった。

10月に筆記の保育士試験を受けて、結果は9科目のうち7科目が合格であったため、残すは2科目。

それからも週一回の勤務は続く。

まったくの未経験であるため、園児の面倒を見ながら得体の知れないオーバー30独身男の面倒も見なければいけない担任の先生は大変だったろうと思う。

それと、これまで自由に身を浸しすぎた反動で、たったの週一回にもかかわらず勤務日があるという事実は私の心をきつく縛りあげた。

おままごと用のおもちゃで園児がエンドレスに作ってくれるゴハンをアムアム言いながら食べるフリをしつつも、本業の納期が頭にチラついたりして、「わしゃ一体ナニをしとるんだろうか、、、」と思うこともしばしば。

最初の2〜3ヶ月は、軽々しく保育の仕事を始めた事を猛烈に後悔していた。

だが年度末が近づいてくるとどうだ。
子ども達も週一回しか来ていないこの私を「ちばたちぇんちぇー(柴田先生)」と認識してくれているではないか。

卒園式も終わり、満3歳児の保育クラスだった子達は幼稚園クラスに持ち上がりである。

私もなにやら巣立ちの喜びと若干の寂しさを感じていた。

そして春休みの預かり保育での事だ。
愛しの元3歳児クラスの子が現るやいなや、「ちばたちぇんちぇー!」と喜びの第一声を上げてくれたではないか。

極めつけはその日の園庭遊びである。
空は快晴で、桜は猛烈に満開であった。

準備の遅い子と最後に園庭の入り口に立つと、先に出ていた元満3歳児クラスの子が、
「ちばたちぇんちぇー!いっちょにちゃくら(一緒に桜)見にいこ!」
と玄関口まで呼びに来てくれた。

なんという愛くるしさ。
この世にはこんなにも完璧な一日があったというのか。

その完璧な一日が私の心にようやく火を付けた。

保育士試験まであと2週間と迫っていたのだが、試験勉強をことごとく後回しにしていた事を悔いた。

保育の仕事を始めたきっかけこそ、ただ友人に誘われたからといういい加減なものであったが、私はきちんと「ちばたちぇんちぇー」になりたいと、その時はじめて思ったのだ。

つづく

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