職人、保育士を目指す その7

あれこれ

いよいよ保育士資格取得のための二次試験(実技)の日がやってきた。

朝8時半に試験会場となる京都の某女子大学にて当日の流れの説明を受ける。

配られたスケジュール表によると私は、9時半頃に言語表現の試験開始予定となっていた。
その後、11時頃から音楽表現の試験を受ければ自由解散である。

9時半からの言語表現試験は、絵本を使わず身振り手振りで3分間の童話を読み聞かせるものだ。

待機室で試験官に名前を呼ばれてついていくと、廊下の両側に並んだ各部屋の前にパイプ椅子が3つずつ並んでいる。

指定された椅子の一つに座る。
待機者2人がすでに並んでおり、私は一番右端の椅子に腰を降ろす。

すると、すぐに部屋の出入り口から一番近い待機者が呼ばれ、座る椅子を一つ左にずらす。

私の左側に座っている女性をチラリと見やると、自分の年齢より少し下の世代かな?という感じだった。
大人しそうではあるが、地味というよりも、清楚で落ち着いている印象を受けた。
好みであると認めざるを得ない。

保育士試験は年配の方もかなり多いので、これは貴重な出会いというやつではないか。

とはいえ、言語表現の試験前である。
ほとんどの受験者が暗記した童話の内容を頭の中で繰り返し読み上げているに違いない。
そんな時に話しかけたら迷惑きわまりないだろう。

それに会場は重苦しい緊張感に包まれていて、言うまでもなく知らない人ばかりなので会話をしている人などいない。

再び隣を見やると、彼女は受験票の裏と表をピラピラと繰り返し眺めている。
これは暗記した内容を頭の中で反芻するというより、手を動かして緊張を逃す行為なのではないだろうか。
よって、話しかけても大丈夫だという事にして、勇気を振り絞り隣の女性に声をかけた。

「あ、あの、すみません、、、
自分の受験番号って、部屋に入ってすぐに言うんでしたっけ?」

隣の彼女はちょっと驚いた様子で、
「え?促されたタイミングで言うんじゃないですか?」
と返す。

「あ、そうですよね。
当日の流れあんまり確認してなかったもんで、、、」

などと、わかりきった事を聞いてしまった。

会話はそこで一旦途切れるも、先に部屋へ入っていった受験者が、かなり気合いを入れて『おおきなカブ』を演じている声が漏れ聞こえてきた。

その芝居がかった
「うんとこしょっ!!どっこいしょっ!!」
という声に、隣の彼女がクスクスと小声で笑い始めた。

「おや!?これはもしや、『話しかけてアピール』なのではないか?
ほんとは笑うほど面白くもないのに、クスクス笑って気を引いているんじゃないのか!?」

彼女の真意はともかく、私はそれをチャンスと捉え、
「これくらい気合い入れて読み上げた方がいいんですかねぇ。」
ともう一度話しかける。

少しいたずらっぽく、「どうなんでしょうね?」
と返ってきたので、その後も会話を続ける。

その時、私の中ではなんというか、正直に包み隠さず気持ち悪がられる事も恐れず素直に申し上げると、
「あ、これは恋愛に発展するな。」
というトキメキムードに包み込まれていたのである。

そして彼女は緊張を逃すためか、定期的に受験票を裏に返したり表に返したりしている。

これは動くものを目で追いかけるという男性の狩猟本能として許して欲しいのだが、彼女が持っている受験票にデカデカと「平成12年○月○日」と書いてあるのが見えてしまった。

「もしかしてこれ、、、生年月日か?」
と思って自分の受験票をすかさず確認すると、「昭和63年○月○日」と、デカデカと私の生年月日が記されていた。

それはつまり、少し年下くらいかなと思っていた隣の彼女が自分より12歳も年下であり、まだハタチくらいだという事でもあった。

「そんなうら若き乙女に突然話しかけるなど、私はなんてスケベな事をしたんだ!」
と思った。

そして彼女が試験を受ける順番がやってきた。

つづく。

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